「リアちゃん!?おいで、こっち……」

井原さんが手を引いてくれた…けど…!

「どうして連れていってくれなかったのか、思い出して辛くなったのね」

ドウシテ連レテイッテクレナカッタノ?

「リアちゃん!」

ドウシテ…ドウシテ…ドウシテ!!

「リアっ!」

ドウシテ私ダケ残ッタノ?
私モ家族デショ?
イラナカッタ?
邪魔ダッタ?
ナンデ相談シテクレナカッタノ?
私ガ子供ダカラ?
私一人残サレタラドウナッタカトカ…考エテクレナカッタノ?
心配ジャナカッタ?
ドウデモヨカッタ?
大事ニサレテルッテ…
好カレテルッテ…

思ッテタノニ!
信ジテタノニ!!

「リアっ」
「…連れてって…」
「リア!」
「くれな…かった…」
「リア!俺を見ろ!」
「ナ、ンデ…」
「リア!リアっ!」
「…ドウ…シテ」
「井原っ!車を回せ!」
「ヤ、ダ…ヤダよ…」
「チッ…リア!」







囲まれたのに気付いてリアの傍に戻ろうと焦った。井原のリアを窺う様子もおかしくなり、リアが……。
車を回させ、リアを抱き上げるが震えながら、なんでどうしてだのと呟いている。こんな様子のリアは初めてだ。
自宅に向かう車の中で、ただリアを抱き締めて何度も名前を呼んだ。だが声が全く届かないのか、反応がない。
世間ではリアは悲劇のヒロインに仕立て上げられている。俺が自宅から出さずにいたのは、取材や記者からのインタビュー攻撃の精神的なものを緩和する為だった。
甲斐運輸が潰れた…いや俺が潰した事も大々的に記事になり、社長は失踪したらしい。その上事故を起こした従業員は、【死んで詫びる】と遺書を残して自殺した。
リアが立ち直る環境は作ってきたつもりだ。それなのに守らねばならないリアを、守りきれなかった……。

「…井原」
「わかってる…Kプラント社長令嬢、古賀マシナリー社長令嬢、うちの常務の娘だな…証拠も録音してある」

リアは錯乱したような状態だった。
【なんで連れていってくれなかった】と繰り返したりもしたが、不謹慎ながら俺にすればよくぞ置いていってくれた、だ。リアを腕に抱いたまま、俺は離さなかった。自宅や俺の携帯には着信が鳴り止まず、代わりに井原が出来る限りの対応をしていた。

「悪いな、井原」
「傍にいて庇い切れなかったのは俺だから…俺こそすまなかった」
「いや…俺が間違っていた…傷も癒える前に親の敵の会社の創社記念なんぞに連れ出して……」
「征志郎…」
「挙げ句、このざまだ…俺から話す前に誰かの口から明かされて……」

最悪だ…こんな形で……。

「パーティーの方は適当に誤魔化しておく」
「頼む…」

井原はまた会場に戻った。うまくいったら今度、きちんと礼をするか。今の俺に出来るのはリアを抱き締める事だ。俺に気付くまで何度も名を呼び、何度も髪を梳く。

「リア、俺がいる…俺はお前を残して逝きはしない……」









気付いたらまた甲斐征志郎に抱き締められていた。いつの間にか眠ってしまったみたいで、甲斐征志郎はスーツのまま、私はドレスのままだった。
そっと腕から逃れ、部屋に戻る。着替えてから簡単に荷物を纏めて、部屋を出る決意をした。
もらったものは全部置いていく。お位牌とちょっとの私物。賠償金や慰謝料の振り込まれてる通帳とカードは暗証番号のメモと残しておいた。
甲斐征志郎の携帯にメールを送り、私の携帯も置いていく…お母さんからの遺書メールを開いて。

「リアちゃん!?」
「井、原さ……」
「征志郎は!?」
「寝てる」
「勝手に…しかもその荷物…出てく気?」
「………」
「俺は行かせないよ?」

井原さんは私の手首を掴んだまま、離そうとしてくれない。

「リアちゃん?出ていく理由を聞かせてもらえるかな?」
「…責任感じてもらうような事、起きてない」
「っ…うちの関連会社が……」
「違うのっ!お父さんたちは……っ」






俺がやったものは全て残っていた。ドレスも金が振り込まれている通帳にカード、丁寧に暗証番号のメモまで。
部屋から位牌は消えていた。リビングテーブルの俺の携帯の隣にはリアの携帯が置かれている。俺の携帯にはメール着信があった…リアからだ。

【出てく。責任とか、とってもらうような事なんてなかったんだから。私の携帯にお母さんからのメールが残ってる。それ見てくれたらわかるから】

急いでリアの携帯はメール画面になっていた。目を通していると、井原が来た。

「リアちゃん…」
「…ああ」
「自殺するつもりだったなんて…もっと最悪じゃないか…」
「だがブレーキ痕があった…その時はまだ死ぬつもりがなかったなら、甲斐運輸の過失にかわりはない」
「だから責任を取るって?」
「そんな生っちょろい理由で一回り以上下のリアに手なんか出すか」
「一歩間違えば犯罪だし」
「法律的には問題ない」

その足で井原と部屋を出る。リアの居所はすぐにわかった。