「紗葉のお母さん…?」
携帯に表示されたまさかの着信相手に少し目を見開く。
周りの奏多たちを見ればみんな静かに頷いてくれて、そっと通話ボタンに触れた。
「…もしもし、」
『…あ、誠くん?』
「…はい。」
『ごめんね。こんな時間に。…私もあんまりよく心の整理が付かなくて…、実はね…』
「…はい、じゃあ今から行きます。」
そう言ってプチッと終了ボタンを押して、今から自分がしなきゃいけないことを瞬時に考える。
「ごめん、俺早退する。」
「え?ちょ、どういうことっ!?」
「紗葉のお母さんに会ってくる。」
「ごめんごめん、状況が理解できないんだけど。」
「…俺だってこのままじゃダメって思ってるから。…ちゃんとけじめ、つけてくる。」
「いや、でも…」
「…いいよ。誠がそう言うなら。先生にはうまいこと言っとく。その代わり変わらずに戻って来たら殴るからね?」
「…ありがとう恵。」
いつもみたいに微笑んだ恵に俺も微笑み返して、
俺は紗葉のお母さんがいる喫茶店へ向かった。
── 『実はね…紗葉に誠くんに渡してって頼まれてたものがあるの。』


