橘田先生が出ていったドアを冷めた目で見つめて。
じわじわとぼやけ出す視界を、そっと拭った。
「…わかってたじゃん。覚悟、してたじゃん。」
こういう運命なことも、あと少ししか生きれないことも全部。わかってたんだ。
でも、もしかしたら癌がなくなるかも、なんて馬鹿なこと考えてた。
たくさん笑ってれば、何かが変わってる気がした。
何に期待したんだろう…。
「……無理だって分かってたから。無理だから、笑っていようって決めたのに。」
笑っていよう、最後まで。あと少ししか生きれないなら、泣かずに笑おうって。
涙、止まれ。私に笑わせて。
無理矢理にでも笑ってみようって口元を上げるけど全然ダメ。
震えて、言うことをきかなかった。
今日は午後からみんな来るのにっ…。
今日は何を話そうかな、なんて考えてみるけど涙は止まらない。
「…お願い…っ、まだ生きたいのっ…」
手首を涙で濡らす。
…生きたい、そう強く願っても私は、生きれない。


