─────────────…
動けなくなった体で、青空を見上げる。
つい、1週間前は全然元気だったのに。
…昨日になってまた倒れちゃって。たまたまその時は1人だったから、発見も遅くて病態は悪化してた。
人口呼吸器はついてないけど、食欲も何もないから点滴が腕に繋がれてる。
…動く気力もなくて、何もしたくない。
昨日からずっと空ばっか見つめてた。
─ トントンッ
「はい、」
ドアのノック音に返事をすれば開かれた先に、白衣を着た橘田先生が現れる。
「紗葉ちゃん、調子はどう?」
「…倦怠感?ですかね。そればっかりです。今はそんなに気持ち悪くはないですし。」
「そっか…、でも顔色が良くない。…ねえ、紗葉ちゃんどっかに青あざがぶつけてないのに出来たとかなかった?」
「え、…あ、左腕…。あと、ふくらはぎ…」
ぶつけた記憶もないのに、なぜか痛くて。
見てみたら、青あざだった…な。
「…それも癌の症状のひとつなんだ。…紗葉ちゃん、もう覚悟は出来てる…?」
「……、死ぬのが怖くないって言うと、嘘になります。でも、前よりはある程度心の整理もついてるつもりです。」
頭ではあと少しだって分かってるし、だからこそ今後悔しないようにって笑顔で過ごしてる。
「…うん。それも大事なことだよ。」
「先生、率直に言ってください。私、あとどれぐらい生きれますか…?」
「……、それは、あんまり…」
「いいんです。言ってください。」
戸惑う先生にまっすぐに視線を向ける。
大丈夫。頭では覚悟だって出来てる。
「…あと、3日から、1週間ぐらい…かな。」
…大丈夫。頭では…、覚悟だって出来てる。
「……、ありがとうございます。」
3月中旬。
桜の蕾が準備を始めてる頃、改めて私の命はあとわずかな宣告を受けた。


