垂れた少しの雫は、紅。
「…紗葉ちゃんっ!血っ!!」
たらり、と何かが口を伝う感覚。
それを隠すように勢い良く両手で鼻と口を抑えた。
…こんなの、初めてだった。
抑えても溢れ出す血は止まらなくて、手と手の隙間から流れ落ちる。
今までのとは比べものにならないくらいの動機。
息はしてるはずなのに、なんだか苦しい。
見ている世界がメリーゴーランドのように回り出した。
「俺、橘田先生呼んでくるねっ!」
いつかみたように徹くんが病室を飛び出して。
周りのみんなは、焦った顔をしてた。
足に力が入らなくなって、おそるおそる膝をつく。
鼻出血。橘田先生から教えてもらったことがある。
がんの症状だ、って。
今度こそ本当に私死んじゃうかもしれない…、ね。
やだよ。まだみんなに何も言えてないんだよ。
まだやりたいこといっぱいあるんだよ。
…まだ生きたい、の、に…。
「紗葉…、っ、ゃ、…!!」
霞んだ意識の中で呼ばれた名前も、その後に発せられた言葉も何て言ってたのか、誰が言ったのかさえもわかんなくて。
私は床に倒れこんで、意識を失った。