「病院に行ったら“紗葉がいなくなった”って大騒ぎでもうびっくりしたんだから。真奈も紗葉のお母さんも探してる。…ねえ紗葉、やっぱりこの前からなんかあったでしょ?」
「…なんもないよ…、…病院から逃げ出したのも意味なんてないの。」
悲しそうに眉を下げる彼から目を逸らして、
厚い雲で覆われてる空を見上げる。
「…ああ、目的は少しだけあったかも。」
「…目的?」
「あそこから逃げれば何かが変わるかもって思った。病院から出れば何かが変わると信じたかった。」
そっと幹に触れてる手を下ろして、
今にも泣き出しそうな灰色の空に手をかざす。
いくら手を伸ばしたところであの厚い雲たちに届くわけないのに。
…、そんなのわかりきってたことなのに。
「馬鹿だよね…、何かが変わるはずがないのに。私を支配してるのは病院なんかじゃなく、がんなのにね…。」
「…紗葉っ…」
「……、ねえ誠。私って生きてていい人間なのかな。私は生まれてきていい人間だったのかな。」
幼少期の頃からずっと疑問だったことを口にすると、
誠の顔は余計に悲しさを表す。
澄んだ瞳は俯いていて、見えないけれど、
唇を噛み締めてるように見えた。
「…最近、自分が自分でわからないの…!あれだけ生きたかったはずなのに…、あれだけがんを恨んでたのに、…、っ、“死にたい”なんて思うなんて…っ!」
一瞬大きな目を余計に見開いた誠と目が合った。
私の頬にはいつの間にか堪えきれなかった涙がボロボロ溢れてきて。
「…、生きたいよっ!まだ捨てきれない夢だって約束だってあるよ…!!生きたいのに…、それが叶わないなら…、死んだ方がいいって思っちゃうの!!…、もう、自分がわかんない…、っ。」


