「紗葉ちゃんもお母さんも、今日は来てくれてよかったです。」
「いえいえ…、検査の結果はどうですか?」
「…まあ、お母さん。長くなるのでそこおかけください。紗葉ちゃんもそこの椅子に座ってね。」
橘田先生のいる部屋に入って2つ並んであった椅子にお母さんと私で座る。
「単刀直入に言いますね。紗葉さんの病態は悪化しています。」
「悪化…、ですか。」
「11月の検査の結果であと半年だと紗葉さんには伝えました。…紗葉ちゃんお母さんに話した?」
「………、話してないです。」
「伝えた時は半年。ですが、今はもう1月なので…残りの時間は3ヶ月です。」
「…紗葉は、あと3ヶ月しか生きれないんですか?」
「我々も賢明を尽くしますが…恐らく。」
お母さんの問いに申し訳なさそうに答える橘田先生。
3ヶ月…。案外短いな…。
「紗葉はもう、良くならないんですか!?」
「紗葉さんの場合、異例なんです。…こんな症状がゆっくり進むのも珍しくて。」
「治療法は…?」
「…抗がん剤治療以外は考えられないです。」
“抗がん剤治療”その単語が聞こえて今まで俯いていた顔が無意識にあがる。
思い出すのはあり得ないくらいの吐き気。
頭を硬い金属で殴られるような頭痛。
「抗がん剤、は…やりたくない、です。効果も…出なかった。」
美由紀がいなくなって、どうでもいいやって気持ちで行った抗がん剤治療は想像以上に辛くて苦しかった。
「紗葉…、でも、」
「紗葉ちゃん。日々医療は進化してるんだ。紗葉ちゃんが抗がん剤治療をしたのは5年前なんだよ?」
分かってる。今は昔よりもっともっと効果はあるんでしょ?
でもあの苦しさは変わってない。
病院を散歩してると抗がん剤治療を行ってて笑顔の人なんて1人もいないんだから。