体育館12:25~私のみる景色~


『……はい』


 数秒の沈黙の後に聞こえてきたその声は、間違いなく佐伯先輩のもので。


 飛びつくような勢いで、私はそれに反応した。


「もしもし……っ!」


 出てくれないかもしれないと思っていたから、安心した。


 だけど、それと同時になぜだか涙腺が緩んで、次の言葉が出てこなくなった。


『……はあ。何の用?』


 大きなため息の後、至極めんどくさそうな声色で、佐伯先輩はそう言った。


 普段よりも低い声にひるむけど、伝えたいことがある。


「せ、先輩。いきなり電話なんかして、ごめんなさい。あの、言いたいことが、あって」


 紡ぎだした言葉は途切れ途切れで、ちゃんと向こうに聞こえているかはわからない。


 けど……。


「どうしても、お礼が言いたかったんです。倉庫で私を見つけてくれたこと、それから、嫌がらせのことも。全部佐伯先輩が、先輩のおかげで、私は……っ」


 言っている途中で、自分が何を言っているのかわからなくなった。


 いざ話し始めたら、伝えたいことが思いのほかたくさんあることに気が付いて。


 だって、今回のことだけじゃない。


 膝を怪我した時も、アドレスを交換してくれたことも、体育祭のリーダー、駄菓子をくれたこと。


 佐伯先輩に関わるすべてのこと、全部に“ありがとう”の気持ちがあって。


 その裏には、ずっと。


 ありがとうっていう感謝の気持ちの前に、もっとずっと言いたかった言葉があって。


 1番伝えたいことは……。