「俺、慶に聞いたつもりないんだけど。……まあ、そんなことは俺には関係ないし、どうでもいいけど」
それは決して大きな声なんかじゃなかった。
どちらかというとぼそぼそとした、小さく聞き取りにくい声だった。
それなのに、残酷にも私の耳は、敏感にもその言葉をキャッチしてしまった。
重くて痛くて突き刺さるようなその言葉は、容赦なく胸を抉った。
……わかってたよ。
そうだよ、誤解されたって、仮に私と慶ちゃん先輩が付き合ってたとしても、そうじゃなくっても。
佐伯先輩にはなんの関係もないことくらい、ちゃんとわかってたんだよ。
佐伯先輩にとって、どうでもいいことなのは知ってたつもりだった。
だけど、こんなふうに直接、好きな人の口から聞くことがこんなにもキツイなんて、私は知らなかったよ……。
じわりと涙が浮かんで、佐伯先輩の姿がぼやけた。
隣りの慶ちゃん先輩が心配そうな顔で、だけど怒りを含んだ顔で私と佐伯先輩を交互に見ているのがなんとなくわかった。
しばらくの沈黙の後、心底めんどくさいとでも言うかのようなため息が聞こえた。
「じゃ、俺は行くから。慶、オメデト。それから、宮下さん。お礼とか別にどうでもいいから」
そう言って背を向ける佐伯先輩。
「せ、先輩っ! 待って……」
振り絞って出した声に反応することもなく、佐伯先輩はどこかに行ってしまった。



