待って、なんなのこれ。
凉も状況がわからないみたいだった。
その時、うつむいていた佐伯先輩が顔を上げた。
「あ……」
その横顔には、一筋の涙。
雫が目の端からまっすぐ流れていくのが、スローモーションで見えた。
顔を歪めもせず涙を流す姿は儚げで、今にもどこかに消えていなくなっちゃうんじゃないかって思わせるような危うさがあった。
これは、あれだ。
わかってしまった。
あの時と同じ顔だったんだもん、気が付かないはずがない。
1年の6月、佐伯先輩を好きになるきっかけになったあの日。
雨の中でひっそりと泣いていた佐伯先輩の姿と重なって見えた。
その場から動き出すこともできなくて、そのまま佐伯先輩を見続けた。
佐伯先輩に、何があったんだろう。
それに、“捨てられる”って、何……?
さっきの女の人の言葉がぐるぐると頭の中を回ってる。
「あ、亜希。行こ……っ」
さすがにこれ以上ここに居続けるのはまずいと思ったらしい凉が私の腕を引いて、今度こそ立ち去ろうと佐伯先輩に背を向けた時。
「待って」
耳を澄ませないと聞き取れないほど弱々しい声で、佐伯先輩は声を放った。



