「ちょっ、凉?」
「しっ! 黙ってないとばれるかもよ?」
いやいや、ばれるとかそういうことじゃなくて……。
盗み聞きは絶対よくないよっ?
そう言うけど、「亜希は気にならないの?」って聞かれて言葉に詰まる。
女の人は結構きれいな人で、佐伯先輩のお母さんかなとも思ったけど、なんだか違う気がするし、やっぱり私だって気になる。
そういうわけで2人の様子を見ている。
佐伯先輩は表情を崩さないでいるけど、女の人はなにやら大きな声で騒ぎ立てている。
その声は、少し離れた場所にいる私たちにも聞こえてくるほどの大きさだった。
聞き取れるのは断片的だったけど、「いい加減、うちに戻ってきなさい」、「恩を返しなさい」とか、あんまり雰囲気が良くない言葉ばかりだった。
そのどれにも佐伯先輩は言葉を返すことなく、ただただ黙って聞いていただけだった。
なんだかこれ以上聞いていちゃいけない気がする……。
凉もそう思ったらしく、2人でその場を離れようとしたとき。
パンッという乾いた音が辺りに響いた。
びっくりして音がした佐伯先輩の方を振り返った。
うつむき加減の佐伯先輩。
垂れ下がった髪の隙間から見えたのは、赤くなった頬っぺた。
今の音は、もしかして……。
「あなたがそんなんなんだもの、捨てられて当然だわ!」
女の人は吐き捨てるようにそう言って、立ち去って行った。



