「創君、お弁当忘れたの?」
「あー…まぁ当番だった俺が寝坊したのがいけなかったんだけどね」
「えー、じゃあ春香のお弁当半分あげようか???」
「いや、いいよ。今日は短縮日課だし、一時半には終わるでしょ?」
クラスの端の方で、クラスの女子と創がお弁当の話をしている。
今日のお弁当の当番は、あたし。
今日は寝坊したのがいけなかった。
創は、ブリッコ春香ちゃんの視線を盗んであたしの方を見てあざ笑っている。
むーかーつーくー!!!
ママが代わりに急いで作ろうとしたら、
「いいですよ、俺、桜子さんに迷惑かけたくないんです」
…わけのわからないキザなことを言い出した。
しょうがなくない?
寝る前も、二階の部屋のはずなのに誰かの視線がして…
眠れなかった。
もうどうしていいのかわからない。
怖い。
痴漢とか、盗撮とか、自分でわかる怖さとは違う。
何もわからない恐怖。
「どしたの、ぼーっとして。」
「ッ!」
背中をツツーと一本指で触られて、驚いた。
「な、んでも、ないっ!!」
一人で思案にふけって冷や汗をかいていた。
すかさず創があたしの手を取る。
心を読む気だ。
恐怖の心なんて、恥ずかしくて読まれたくない。
「ちょ、っや!」
ぱんっ!!!
乾いた音がして、
創の手が、あたしの手から離れた。
「ちょ、何やって!!」
さっきのブリッコ春香ちゃんが怒りに満ちた表情でこちらへ向かってくる。
「ごっ、ごめん…痛かった?」
顔面蒼白な創。
傷つけてしまったのだと思ったあたしの予想はハズれた。
「薫子の心が、読めない……?」
創は、小さな声で呟いた。