桜雨〜散りゆく想い〜

 「雨、降りそうだな」


 独り言のように言った僕の耳に、微かに、本当に微かに香の声が聞こえた。


 「お願い――もう少しだけ……」


 香は今にも泣きだしそうな顔で、薄い唇を動かしていた。


 僕は見てはならない物を見たような気がして、気付かないふりをしながら屋上に足を踏み出した。


 僕の後に香もつづく。


 桜並木が見える位置まで来て僕たちは腰を下ろして、弁当を拡げた。