「ううん……ノンちゃんは今過去を見てるだけ」


 「そんな事ない……僕は香を――」


 「好きなら――私を好きならもっと……嬉しそうな顔するはずだもん――」


 香は笑顔を崩さなかった。13年前の――あの桜雨の中のように。


 「私は桜だから……」


 香は言ってから、僕に背中を向けて歩きだす。


 僕はどんな言葉を言えば香の足を止められたのだろう――


 きっとそんな言葉は何処にもなかったんだ……