たとえば、青



女子トイレで硝子ちゃんを見つけたとき、彼女は手洗い場の横に座り込んでいた。





今日は一段と手酷くやられている。



何の水を掛けられたのか、頭の先から足の指までどろどろだ。


その上、酷い臭いが鼻についた。



硝子ちゃんは目線を床に落として、口を小さく結んでいた。


こんな姿なのに恐ろしく画になるその整った顔立ちが、彼女の痛みを助長しているのだろう。




私は黙ってポケットからハンカチを取り出し、硝子ちゃんの腕や髪の毛を丁寧に拭いた。


淡い紫色だったハンカチには、みるみるうちにうす茶色の水が滲んでゆく。




「硝子ちゃん、大丈夫?」




もう一度、声をかけた。

顔が少し上を向く拍子に、べたべたに重くなった黒髪が肩から滑り落ちる。




「…ねぇ、凪」



「なぁに?」



「凪って青みたいね」




硝子ちゃんの真っ黒な瞳はゆらゆらと揺らめきながら、私のことを覗き込んでいる。
 



「あお?」



「そう。色の、青」




あお、あおと口の中で何度もそれを反復する。



だけど結局、私はその意味がわからなくて小さく頷くことしかできなかった。