コーヒーを飲み干した俺を見て、千秋は、あれ、と呟く。

「もう飲んじゃったんだ。私オレンジジュース、ちょっと量が多いかも」

彼女は笑いながらオレンジジュースを俺に差し出す。

「ちょっと飲む?」

…何故か、昔の事を思い出していた。

子供の頃、一緒に遊園地に行った時の事。

遊園地に向かう車の中で、千秋が飲みかけのオレンジジュースを俺にすすめてくれた事があったっけ。

あの時は、これって間接キスじゃん、なんて思いながら、ドキドキしながら口にしたのを覚えている。

でも…。

今の俺は、そんな気分じゃない。

気持ちを悟られちゃいけないんだから、千秋にわかってくれなんて言えない。

けど…。

どうしてそんな可愛い笑顔で、お前は俺に昔と同じように接してくるんだよ…!

「飲みかけのものなんか、すすめるなよな」

…思わず、口をついて出てしまった。

あからさまに、とがった言葉。

苛立ちを含んだ、冷たい言葉。

「……」

千秋は驚いたように俺を見た後、しょんぼりと下を向く。

その様子を見て、しまったと思っても後の祭りだった。