こうしてソラくんと顔を会わせるようになったのは、割と最近の事。

部屋のクーラーが壊れてしまった今年の夏のある日、窓も網戸も全開に開けて縁に凭れ掛かり、ぼんやりと外の景色を眺めていた。

確かあの日、カナタと他愛もない喧嘩をしていたように思う。


(暑いしむしゃくしゃするし…もう最悪!)


…カナタのバンドに対しての姿勢にとやかく言うつもりはなかったはずだったのに。

あんな風に言いたかった訳じゃないのに…。

私は俯いて、込み上げてきた涙を指先で拭った。疑心暗鬼の真っ最中だった。

だから、部屋にセミが侵入してきた事にも気づくのが遅れてしまったのだ。


「ぎゃっ!ちょっとおっ!」


虫が大の苦手な私は、小型の飛ぶバルタン星人の襲来にパニックに陥った。

しかも、部屋の机の角に留まってジリジリと鳴き出した時の恐怖はなかった。

私とバルタンの距離、僅かに三十センチ。

──助けて、ウルトラマン!

私は恐怖でイカレた頭で強く念じた…だけだったと思ったのが、どうやら完全に声に出していたようだった。

次の瞬間に隣から聴こえてきた、誰かの笑い声。


「ウルトラマンって…、ぶはははっ、セミ相手に!」


同じく窓を全開にして、笑い転げていたのがソラくんだった。


(…こんな子、隣の家にいたっけ?)


そう思ったのと同時に、今度は私の顔面に目掛けて留まっていたセミが飛んできた。

…そして、私の絶叫。

剰りの大声にセミの方も驚いたのか、そのまま空に向かって飛んで行って事なきを得たのだった。