携帯小説の中の十代の乙女になったようにセンチメンタルな気分に浸っていると、窓の外から、カツカツ、と音がした。
またか、と溜め息を吐く。
カーテンを開けて窓を開くと、想定通りの顔がそこにあった。
「よっ!おねーさん元気してた?」
「…落ちても知らないよ」
前屈みに身を乗り出し、長い定規で私の部屋の窓を叩いた張本人、支野 空(ハセノ ソラ)。
彼は隣の家に住むイマドキの男の子。茶色い明るい髪に白いシャツが眩しい、青春真っ盛りの高校二年生。
屈託のない笑顔で、にしし、と笑うと、乗り出していた身体を海老反りにして体勢を立て直した。
「いつも言うけど、キミからしたら私なんてオバサンでしょ。お姉さんとか気遣わなくていいから」
「んな事ないっすよ、まだまだイける!ハルさん若いし」
「…、で、今日はなんの用?」
「あ…、えーと…爪切り、なくしちゃって。貸してほしー、みたいな」
…出た、突拍子もない催促。
昨日はコンパスで、一昨日は、色鉛筆だったか絵の具だったか。
最近ではそろそろネタが尽きてきたようだ。
なにせ催促はほぼ毎日で、至極どうでも良いものを「貸して」だの「教えて」だの、あの手この手で話し掛けようとしてくるこの少年。
「よく飽きないよね、この遊び」
「遊びじゃねーよ、ハルさんと話してーんだもん!一日一回は顔見たい」
「…はあ」
「俺はぁー、タチバナハルさんがー、好きでぇーっす!」
近所に響き渡るのにも構わず叫ぶ、ソラ少年。
若さ故のこのストレートさが、最近では羨ましく思えたりもして。


