過去を思い出すと、余計に虚しくなって惨めになって、現在の自分がもっと嫌いになる。
カナタは、変わってしまった。
昔は沢山音楽や映画の話をして、手を繋いで一緒に歩いて、景色を一緒に見て笑い合っていたのに。
「"夢だけじゃ腹は満たされない"、…か」
歌詞カードを見て、私はぼんやりと呟いた。
今の彼の歌詞は痛々しくて、剰り好きではない。
銀色の髪に、細身のシルエット、甘い顔立ち。
美人は三日で飽きる、というけれど、確かに年月が過ぎると然して見た目に興味はなく、この歳になってバンドマンと付き合っているというステータスにも価値はない。
…"ステータス"?
昔は、こんな事を考えるような私じゃなかったのに。
…嫌だ、こんなに自暴自棄になるなんて。
腕を伸ばして手鏡を見ると、映る自分の顔は大層やつれて見えた。
肩より少し長くなった髪を切ろうか、このまま伸ばそうか迷っている。
(前だったら、こういう髪型にしてよ、って言ってくれたりしたのにな…)
これ程までにカナタを思い出すのは、きっと彼氏という枠から奴が抜け出てくれないからだ。
子供染みた考えに、またひとつメンタルの粒子が堕ちていく。
見晴らしの悪い森の中を彷徨っているような気分。
森は、危険がいっぱいだ。
突然の雨に見舞われるかもしれないし、ヘンゼルとグレーテルみたいに、魔女に出会すかもしれない。熊に喰べられてしまうかもしれない。
一冊の本に綴じ込めたお伽噺のように、姫の窮地には王子さまが迎えにきて、ハッピーエンド。
そんなメルヘンな展開は現実にはなく、混沌とした闇が巣食っているだけ。
…私の、心も。


