駅ナカの薬局で、マスカラとファンデーションを手に取り、少し派手目なグリーンのアイシャドウも購入した。
素の自分の幸が薄い顔が、私は嫌いだった。
だから目の周りを縁取って、チークで本音を隠す。
真っ黒に口を開けたブラックホールのような不安、未来への哀しみと葛藤。
(──生きるって、ただ食べて寝てセックスして、その繰り返しでしかないの?)
今日の私は綺麗な花を見ても、真っ青な空を見上げても、ぺらぺらの安い印刷写真にしか見えないのだと思う。
赤信号で立ち止まると、右隣のサラリーマンは腕時計に目をやって、苛ついた様子で舌打ちをする。
──ねえねえ、あそこのCDショップ、また潰れちゃったんだって。
左隣の女子高生が言うと、その友達が、えー、もうCD買うとこなくなっちゃうよね、と口にする。
中古かレンタルで充分じゃん、ともう一人が返す。
私は溜め息を吐き、下を向きながら信号が青になるのを待った。
『ハルの彼氏、こんな時代に音楽やってんの?プロでもないんでしょ?大変だね』
同僚のユキミに言われた言葉が脳裏に蘇って、唇を噛み締める。
歩き出す人の群れは四方八方にばらけて、それぞれが別の人生を歩んでいる。
東京の街は酷く機械的で、生身の人々からも温度を感じられなくなってしまった。
…今頃カナタは、別の女の肩でも抱いているのだろうか。
心臓の痛みは、傷つかないようにする為の、身体の防御本能。
幸せについて考えると、只ひたすらに虚しくなる。
世間という窒息しそうな狭い世界を徘徊する路地裏のネズミになったような気分で歩き続けた。


