都会の風は冷たい。

街の喧騒に呑まれてしまえば、先程までのセックスの余興も感じられず、身体は芯から醒めきってしまう。

カナタの家から出て、中央線に乗って自宅まで数駅。

彼の電話の相手はきっと若い女で、猫撫で声で好きだの愛してるだのを夢中で告げるような可愛らしい人なのだろう。

…嫉妬すらもしない、イコール、私はやっぱりカナタを愛していない?

愛って、どういう形?

丸いのか四角いのか、歪んでいるのか、私はわからなくなっている。

この五年間で、感情を圧し殺す事にも慣れた。

ギターが恋人、なんてホラを吹き散らしながら女を寄せては、棄てて。

私との関係を断たないカナタは、お前だけは信用出来る、なんて繋ぎ留めている癖に、一向に結婚の意思も、これからの未来についての提示も全くない。

潮時だ、と何度思っただろう。

ガツガツとアスファルトを削るように、ヒールの踵を鳴らして駅のホームを歩く。

その様は、ピラニアが小魚を捕食するのと何処か似ているような気がして、寒気がする。


(…あんな男に引っ掛かる予定じゃなかったのに)


私の理想のタイプは、優しくておおらかな年上の人、だったのに。

カナタに会ってから、歯車が合っているのか狂っているのか、判別がつかない。

でも、きっと後者だと思う。

感覚が麻痺して、心が死んでしまったのがわかる。