頭ががんがんと石の破片をぶつけるかの如く痛む。

会社のデスクに肘をついて、額に手を当てながら昨夜の失態を思い返した。

斜め前の席に座る嫌味担当のユキミが、体調管理はしっかりしないとね、なんてこっちを見ながら仄めかしてくる。

そんな事もどうでも良かった。

一夜泣き明かして、もう"どうでも良くなった"が正解だ。

朝方に届いたカナタからのメールは予想外なものだった。


『俺、Re:tire辞める』


見た瞬間、頭が真っ白になるのと同時に、何処かで冷静に予測していた自分がいたのかもしれない。


『なんで辞めるの、ジュリ達と話したの』


白けていく朝と私の猜疑心に追い討ちをかけるように、直ぐに返ってきた着信。


『あんなバンドにいても俺は成長できない。前から辞めようと思ってた』


昔のカナタとは真逆の、冷たいメールだった。

驚くのを通り越して愕然とした。


『Re:tireを脱退するとしたら、カナタさんだと思いますよ』──


昨日聞いた言葉が蘇る。

…ユラさんは初めから知っていたのだろうか。

知っていて、話の先回りを?


(…昔のカナタは"あんなバンド"なんて絶対言わなかったのに)


ジュリやズッキーの真剣な気持ちとは大違い。

元々、温度差がありすぎたんだ。

今まで気づけなかった自分にも、悔しかった。

こんなに離れてしまったら、カナタに「Re:tireを辞めないで」なんて言う気にもなれない。

だって、本人にやる気がないのだから仕方がない事だ。


『家に来いよ』

『やり直そう』


LINE、メール、電話…あらゆる手でのカナタからの催促が増えていった。

…付き合っていたこの前までは連絡なんてして来なかった癖に。


(私の中ではもう、終わってるよ)


迷いなくメールや履歴を削除していく。

昨日の夜にあの電話に出ていたら、今まで通りだったかもしれないのに、と空っぽの心で考えた。