ソラくんと話をしている時は、私も歳を忘れて十代に戻ったような心境になれた。
今頃カナタが女とどうの、なんていうのが頭の隅を横切った時、小型のなにかが宙を舞ってこちら側に投げ入れられる。
ベッドの上に落下したのは、ベビースターラーメンの袋。
「あーあ、キャッチしてくれると思ったのに」
「…私のどん臭さをナメてもらっちゃ困るよ」
「あははっ、嘘嘘。それ、この前のお礼ね」
まだ窓を閉める気配のない彼は、これ、食いにくいけどたまに無性に食いたくなる、と言いながら椅子に座ったまま窓辺に凭れて、ぽりぽりと同じものを食べ始めた。
この前私がシュークリームの包みを、同じようにしてソラくんの部屋に向かって投げつけたのを思い返す。
──いくよー、潰れちゃうからうまく取ってね!
ほいきた!
…おー、ナイスキャッチ!若い子はやっぱり瞬発力が違うねー。
…俺、ハルさんからあんまりそういうこと聞きたくない。
ごめん、オバサンの戯れ言だと思っといて。
違うって、俺は早く大人になりたいの!
『ハルさんに、早く追いつきたい』。
そんな可愛い事を言ってくれるハルくんを、こんな弟がいたら良かったな、なんて微笑ましく思う。
十歳も年齢が上の女をどうしてこんなに慕ってくれるのかといえば、きっと私もハルくんも一人っ子だから通じ合うものがあるのかもしれない。
…と思っていたら。
「俺、妹いるよ」
「え、そうなんだ」
「あ…、いる、じゃなくて、正式には"いた"だけどね」
一瞬見せたハルくんの寂しそうな顔に、訊いてはいけない事を聞いてしまった、と気づいて、ごめん、と言うと、気にしなくていい、というように笑って返される。


