「何もねぇから安心しろ。」

「え?」

沈黙が数分続いた後
輝樹が 小さな声で
うつむいたまま呟くように言った。

「職場の女にだけは
絶対 手出そうとも思わねぇし
本気でぶつかってくる女には
本気で返すから手出すような仕草もしねぇぞ。
だから
春菜が心配するような事は
何もねぇから」

「で、でも・・・・
昨年・・・」

「昨年?何だ?」

「秀忠くん達と輝樹の姿見た時
・・・その女の人と
輝樹の車に乗って
どっか行ってたじゃん・・・」

「秀忠?って
亮の弟だっけな・・・
あー、そういえば
そういう事もあったな。
あれは あの女の車が停めてある場所に送って行っただけなんだけどな。
手出したと思われてたとはな・・」

「じゃあ・・・なんで
あの時 嘘ついたの?」

「あの女とだけは
疑われたくねぇもん?」

「は?」

「まっ、そういうことだ」

そういうことって・・・

結局・・・・

浮気されても、
不安抱えてても、

追求もできないし
束縛もできない。

こうして
輝樹の一言で
内の中に押し込めて
正常の感情バランスを
保ってるのかもしれない。

いや、
保とうとしてるのだろう。

別れる勇気がなければ
ガマンするしかないという事を
嫌というほど
自分で理解しているから・・・