コウは「だから」と言いながらズボンのポケットをまさぐり、



「これ」


その手に載っていたのは、箱にさえ入っていない、シンプルな大小の指輪がふたつ。


私は思わず目を見開いた。

それを見た瞬間、驚きで、酔いも眠気も一瞬で吹き飛んでしまった。



「結婚指輪な」


指輪の内側には【K&M】という文字が。



「前から注文してたんだ。で、受け取りに行ってて、今日帰るの遅くなったんだけど」


今日は残業だと言われてて、私は何も考えずにそれを信じていた。

なのにまさか、コウが密かにこんなサプライズを用意してくれてたなんて、全然気付かなかった。



「初めて自分で稼いだ金で買いたいってずっと思ってたんだ。まぁ、婚約指輪はさすがに無理だったけど」

「箱は?」


驚き過ぎていた私は、思わず関係ない、素っ頓狂なことを聞いてしまう。



「箱は必要ないだろ。外すことねぇんだし。っていうか、箱があったらポケットに入らないから。捨てた」

「『捨てた』って……」


でも、何だかコウらしくて、私は笑ってしまう。

コウも笑っていた。



「つーか、とにかくそういうことは置いといて。もう一回ちゃんと言わせて」


コウは改めて私へと顔を向ける。

真剣な目。



「一生、守っていく。だから、マリア、俺と結婚してよ」