「おい、ミリア」


ドクンと心臓が不吉に跳ねる気がした。


彼の声ではない。


あたしが今、もっとも聞きたくない声だった。


恐る恐る振り返ると、そこには案の定そこには……。


「おにい、ちゃん……」




少し見上げた先にはまるで血のように赤い髪、そして冷たく強くあたしを見つめる青い瞳があった。


どうして、ここにいるの……?


あたしは動揺し、言葉すら発することができない。


その間もお兄ちゃんはあたしと同じ青い瞳であたしを射抜くように見つめている。


「どう…して……?」


「決まってるだろ、お前を迎えに来たんだよ」


やっとのこと絞り出した声も、一瞬にして打ち砕かれる。


「帰りが遅いから少し見に来てみたら……すっかりここに馴染んでるみたいじゃないか」


そう言いながらお兄ちゃんは1歩ずつあたしとの距離を縮めてくる。


あたしは反射的に後ろに下がったが、すぐに追い詰められてしまう。


「まさかあんな男に惚れ込んでいるとはな……」


「……っ、違う! 慧くんは悪い人なんかじゃない!!」