「……何でもない」


あたしは片付けていた食器をカタンと棚に戻して、クルッと寝室へ逃げようとした。


「待って……!」


そんなあたしを、彼は後ろから抱きしめて捕まえる。


やめて……。


これ以上あたしに触れないで……。


その腕の中の感触が、その温もりが……


忘れられなくなるの……。


お願いだから、これ以上あたしの心に入ってこないで……っ。


「……逃げないでっ」


彼が切なそうに呟いて、あたしの首筋に顔を埋めた。


そして、消え入りそうな声で囁いた。