「慧くん…?」


食器の片付けを終え、リビングへ戻ると、真っ白なグランドピアノの前に座る彼がいた。


「弾くの…?」


彼に近づいて隣に立ち、恐る恐る聞いてみる。


「……ミリアは聞きたい?」


まっすぐあたしを見つめて聞いてくる彼。


あたしは素直にコクリと頷いた。


「……じゃあ一曲だけ。ミリアの為に弾いてあげる」


普段はあまり家では弾かないのだろう。


彼の言葉や仕草からそのことが見て取れる。


しかし彼が鍵盤に手を置き指を滑らせると、そんなことは感じさせないほど美しい音色が部屋に響く。


しなやかに鍵盤を滑る長い指。


その指から奏でられるメロディーは儚くも美しい旋律で流れてゆく。


あたしはピアノを弾く彼に見惚れながら、美しい旋律に聞き惚れていた。