「ヒサノ、あなたは治療術ができますよね?」



名前を呼ばれたヒサノはバッと顔を上げた。

顔を明るく輝かせ、碧い瞳は夜空の一番星のようにキラキラと光りを帯びている。



「はい!できます!!」



治療術とは怪我を治療する術である。


医者が扱う治療と違い、まるで神隠しのように傷が消えることで巫女にしか扱われていない。


ソフィアの話によると、ヒサノは治療術が得意らしい。



「はい…わかりました、話をいたしましょう。
あなた達、女神メルスが誕生するときの話を知っていますか?」



女神メルスの誕生…?

レオナはふと、先程ソフィアの家で読んだ本の事を思い出した。



「…あーーあのうさんくせぇ話だろ?」



またその話か、と溜息をついた…ところで巫女達の視線が一斉にレオナへ集まった。


この教会は女神メルスの信者ばかりだ。


メルスの悪口(今のは悪口なのか?)を言うと後でどんなとばっちりがくるかわからない。


ちくちくと刺される視線の中でヒサノの眼光が一番光っているように感じた。


一番星ではなく一番眼ってかんじだな、っとまた余計なことを考えるレオナであった。



「…女神メルスは自分が死んで神になることで世界を救ったというところまでは知っていますね」

「はい…」



そう力無く答えるとファンは満足そうに微笑んだ。



「上出来です、頭の良い子達で助かりました。
…ではまず、あなた達で旅をしてもらいます」



…………………………


ファンからの予想外な発言に三人は言葉を失った。



「……………はぁ?」



最初に声を漏らしたのはレオナだった。



「え…、じゃさっき聞いた武術や剣術って……」



震える声でファンに問うアラン。


それにニコリと女神のように微笑み、あっさりとファンは答えた。



「はい、命の危険もありますからね」



ファンの微笑みが悪魔に見えた瞬間であった。