「俺の携帯、返してくれませんか」


話し合いをしていた喫茶店の席に座って、右手を差し出す。けれど、背中に隠されている携帯を、返してくれるつもりは全くないようだ。


「返したら、またお昼一緒にしてくれますか?」


まだそんなことを言うコイツに、本当に呆れる。
こういうことを言うほどに、どんどん嫌いになっていくということを分かっていないのだろう。彼女の足首はもうすでに治っているし、これ以上係わるつもりは全くない。


「返してください。 それから今後、俺と沙織さんに構わないでくれませんか?」
「美崎さんの何がそんなにいいんですか? 私の方が若いし、可愛いじゃないですか」


全然かみ合わない会話に辟易する。でもコイツをどうにかしないと、沙織さんに説明もできない。ひとつ溜息をついて自分を落ち着かせる。


「若いとか、かわいいとか、関係ないんですよ。 俺は沙織さんだから好きなんです。 あなたは沙織さんじゃない、その時点で論外だ」
「っ」


あの人の好きなところを、簡単に教えてたまるか。
好きな理由を教えるのは、沙織にだけだ。彼女にしか言いたくないし、好きを届けたくない。


「だから返して下さい」


もう一度催促すれば、意外にも彼女はあっさりと返してくれた。

すぐに着信履歴を確認する。すると一番上に、待ちに待っていた愛しい人の名前。
時間はついさっき。つまり沙織さんからの久しぶりの電話に、コイツは勝手にでたらしい。
考えなくても、余計なことを言ったと容易に推し量れる。