「ウジウジするめずらしい沙織を見てるのは楽しかったけど、もう十分じゃない? そろそろいつもの沙織になって一発ガツンとやってやればいいじゃん」
真帆は右の拳を突き出す仕草をして、私に発破をかけてくれる。
「ま、こじれればこじれるほど、もっと楽しいことが起こるんだろうけど?」
そうやっておどけながらも、そうなる前にちゃんと背中を押してくれる。
そんな分かりにくい親友の優しさを、無駄にすることはできない。
私は紙コップに残ったお茶を一気に喉に流し込んで、大きく息を吐いた。
少し意識がはっきりしたような気がして、いつもポケットに常備している個包された小さな角砂糖を口に入れる。
甘さが口いっぱいに広がる。それにつれて徐々に意識がはっきりしてきた。
糖分を摂っただけでこうも変わる自分の身体を、いつも不思議に思う。
「血糖低かったの?」
「ん、ちょっとそんな感じしたから捕食したの。もう大丈夫」
私の行動を見て、気づいたんだろう。心配そうな顔で私を見つめる真帆に、笑って答える。
そのまま、携帯を取り出して、最近呼び出していなかった名前をアドレス帳から呼び出す。
「いよいよ決着つける決心がついたの?」
「おかげさまで」
言いながらも、指が震えるのは隠せない。
低血糖のせいじゃない。この震えは緊張からだ。
真帆も震えているのに気付いているはずなのに、「さっすが沙織」と気づかないふりをしてくれる。なんだかんだ言っても、真帆は本当に優しい。
震える指でボタンを押して、携帯を耳にあてた。


