今じゃ、メモ用紙をまとめておく専用のボックスを、ロッカーに常備するようになった。

いつもの様に、今日の日付を入れてまとめる。ボックスの中に今日の収穫を入れて、さあ着替えよう、としたところで初めて、いつもとロッカーの中が違うことに気が付いた。

今朝着てきたお気に入りのコート。

真帆が去年誕生日に買ってくれた、チャコールグレイのコート。
そのコートに、真っ赤なペンキがかけられていた。
これには、さすがに言葉が出ない。

ロッカーの中にはペンキは落ちていない。コートからもペンキの匂いはしない。
ご丁寧にコート取り出して、別の場所でペンキをかけて、乾かしてから戻したらしい。


「……だから、気を遣うところが間違えてんだっつーの」


コートにペンキをかけるくらいの度胸があるなら、いっそのことロッカーごとペンキまみれにしろ。それで、コートだけ無事にしてくれた方が良かった。

くしゃり、コートの袖の部分を握る。

自分で買ったものならまだいい。あきらめもつく。 でもこれは、真帆から貰ったものだ。
あの真帆が、『奮発したんだから、大切に使いなさいよ』と、照れながらも渡してきたものだ。……大切なものだったのに。
じわり目頭が熱くなるけれど、気合でどうにか堪える。
ここで泣いたら思うつぼじゃない。こんなことをする奴に泣かされるなんて、冗談じゃない。