糖度∞%の愛【改訂版】


視線で不満を訴えると、「甘々なアンタらには、これくらいの辛さがちょうどいいわっ」なんて、フンと顔をそむけられた。
理不尽な真帆の言葉に、返す言葉もない。ただただしょうゆ色に染められていくお椀の中身を眺めるだけだ。


「要するに、幸せすぎて怖いってことでしょう?」


やっと飽きたのか、しょうゆをもとの位置に戻しながら、真面目な声で真帆が言った。
その切り替えの速さには、毎回舌を巻く。毒づきながらも相談には乗ってくれるつもりだったらしい。その気まぐれを逃さないうちに「それもちょっと違う」と答えた。

幸せすぎて怖い、とかそういう乙女チックな感情じゃない。
そうじゃなくて、もっと。


「……アイツが沙織に愛想尽かせて、離れていった時を怖がってるワケ?」


オブラートに包んで説明しようとした感情を、真帆は直球でズバリ言い当てた。
こういう、遠慮を知らない物言いが結構好きだったりする。


「そう。なんていうか私にとって、恋愛って永遠なものじゃないんだよね」

「……それは身体のことがあるから?」


それにコクリと頷く。


「私自身、この身体のせいで色々理不尽な扱いとかされてきてるし、このせいだけじゃないのかもしれないけど、恋愛も長く続かないし」

「今の彼が最長記録だもんね」


真帆の言葉にまた頷く。
会社の社員食堂で、しかも昼休みだ。周りの耳もあるから、彼方の名前も“病気”という言葉も出すことができない状況での会話。
それでも今話しているのは、真帆が気づいてくれたからだ。私が、胸の内にくすぶっている不安を抱えていることに、そろそろ限界が来るころだろうと察知してくれて、半ば無理やりに問いただされた。