「なんで?」と重ねて問う私に、五月女は困ったように前髪をくしゃりとして宙を見上げた。
「反則でしょう、それは」
「……は?」
思わず零れてしまったかのような呟きに、露骨に眉を顰めてしまう。
“反則”ってなんだ。私がそんな質問をするのがそんなにおかしいのか。
さっきのオマエニ感じた、胸キュンを返せ。
「そこでそんな可愛い質問するなんて、ホント反則」
困ったような表情からガラリと変わって、とろける様な微笑みつきのクサいセリフ。
五月女の株が落ちたと思った後の、この言葉。ガッカリした分ときめきの上がり方が半端ない。これも計算なのだろうか。五月女の過去の恋愛経験知の成せる技なのだろうか。
らしくもなく、すぐに言い返すことができなかった。変わりに真っ赤になった顔が言葉の代わりに雄弁に語ってくれた。
油断させといて不意打ちに大きい一撃を繰り出してくるなんて、本当にくえない奴っ!
未だに反応できない私に、一歩距離を縮めた早乙女が、「ありきたりなセリフでいいですか?」と囁くように問いかける。すでに私の後ろが壁だろ分かっていて、距離を縮めているんだろう。
何も考えていないように見えて、二手も三手も先を簡単に読んで行動するコイツを、手中で転がせる奴は、一体この世に何人いるのだろう。
味方だったら誰よりも心強いけれど、敵にしたら恐ろしい。


