差し出された椅子も、洗練されたデザイン。
「ていうか、あの、ここ何?」
見たところ私たちの他には誰もいないし、急にこんなところに連れてこられても、浮き足立ってしまう。
「んー、兄さんのアトリエ兼、秘密基地兼、オレと伊澄兄さんの密会場所?」
小田桐君が、傍らに壁付けられた小型冷蔵庫からペットボトルを取り出して戻ってくる。
手に、どこから持ってきたのか、回転椅子を掴んで。
キャップを回し、パキッという音をさせてから
はい、と差し出されたメーカーのアイスミルクティーを一口口に含む。
小田桐君は目の前で、回転椅子を軋ませながら絶えずくるくると遊んでいる。
その様子を眺めながら、
子供みたい。
あ、ミルクティー振り忘れた。
と私は思う。
「叔父さんと密会するんだ?」
可笑しげな言い回しだ。
「まあね。父さんがいい顔しないから…ゃ、何でもない」
その言葉が気になったけど、触れられたくないかもしれない。
開きかけた口をつぐむ。
くるりと背を向けた彼の表情は窺えない。
それっきり、どちらの声も途切れた。
なぜか重く染まる空気。
息づかいさえもはっきり聞こえるほどの静けさ。
小田桐君の背中は、何かを思索するように動かない。
ふと昨日の、影を夕陽に彫られた真剣な横顔を思い出す。
『本気でデザイナーを目指してる』
『オレの夢』___
この話は、彼にとってすごく重大なものなのだろう。
たぶん、私が思う以上に。
だから、慎重にもなるし緊張もする。
私が頷くかに懸かっているから。
デザイナーを目指すなら、このコンテストで優勝するのが一番の近道。注目が集まり、名も売れる。
最高の環境じゃないだろうか?
「琳ちゃん」
背中越しのハッキリした声。
「考えてくれた?」
でもやりたいとは思えない。
自分のメンタルは思っているより弱くて脆い。
2年前を繰り返したくない。
それに、この話を引き受ければ、
小田桐君の夢の一端を背負うことになる。
……そんな自信ないよ。



