応対したらしいお母さんの声が階下から響いてくる。
「琳ー、お友達よー」
私友達いません。
訝しく思いつつも、とりあえずノソノソとベッドから這い出る。
「小田桐くんっていう子ーー」
眠い目を擦る手が動きを止める。
なんですと!?
早く起きてきなさい___お母さんの声は耳に入らなかった。
眠気もぶっ飛び、転びそうになりながらクローゼットを開けて適当にワンピースを引っ付かんだ。流石にジャージでは殿方にお目通りできない。
バタバタと慌ただしく支度を進め、寝癖の治らなかった長い髪は手櫛で、過去最速でポニーテールにまとめられた。
部屋を出て、階段を降りる。
お父さんの部屋からは大きな鼾。
ひとまずほっとして、話し声の聞こえるリビングのドアの前に立つと、変に緊張してきた。
いきなり休日に、しかも私の家に、知り合って日の浅い異性がいる。
私の日常としてはかなり突飛なその状況が意味なく動機を起こさせているに違いない。
___よし。
遠慮がちにゆーっくりとドアを開いていき、顔を覗かせる。
食卓にはお母さんと小田桐君が向かい合って座っており、何やら楽しげに会話を弾ませている様子だ。
「小田桐君、紅茶でよかった?」
「あ、おかまいなく!すみません。急に押し掛けちゃって」
「いいのよーそんなこと。うちこそごめんなさいね。琳ったら休みの日は昼まで起きてこないもんで……アッサムとダージリン、どっち派?」
「ありがとうございます、アッサム派です。オレが時間考えなかったんですよ、休日はそうする人も多いのに」
「いえいえ……はい、アッサムどうぞ」
「おー!いい匂い。いただきます」
……なんだ、これ。
なんかお母さん、いつになく機嫌がいい。
「……小田桐君」
躊躇う気もいつの間にかなくなって、部屋に入ると後ろでバタンと音がした。
「あー、琳ちゃん!コンニチワ。ごめんね起こして」
淹れたてのアッサムティーを嬉しそうにすすりながら小田桐君が振り返る。
「こ、んにちは」
違和感を覚えて時計をみやると既に11時。
何の前触れがなくとも、別に彼が非常識な時間に訪ねてきたわけではなかったらしい。
このままいくとお父さんは昼食も食べ損ねるだろう。が、今起きてこられては困るので、是非とも食べ損ねてもらおう。
「遅い、琳!パン焼いといたから、早く食べなさい。それにしても、琳に男の子の友達がいたなんてね~!しかも小田桐君イケメンだからビックリしちゃった」
うちのお母さんは面食いだ。だから、全然そうは思わないけど、お父さんはハンサムらしい。
「いえいえ、そんなことは。オレの方こそ、お母さん若くてお綺麗で、お姉さんかと思いましたよ」
今日の小田桐君は一段と愛想がいい。初対面の母と親しげに話すところを見ても、やっぱり人見知りとかしない人なのだ。
「けど、琳さんとはとっても仲良くさせていただいてます」
私は口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。
ギリギリでこらえた。
人って、思いがけない言葉に驚きを隠せないものだと思う。
とっても。
そこを必要以上に強調した小田桐君は、急にむせ出した私を気にかける。
せいぜい、口きき出して3日じゃなかった?



