ちょっとしたおまけなのかソーサーの上に置かれたティースプーンには小さなマカロンが乗っている。
「あげる」と先輩はマカロンを私のソーサーの上に置いた。
猫舌の先輩は自分のコーヒーが少し冷めるまで待つようだ。
代わりにグラスの水を飲んだ。
「もし、私に話して楽になるなら、先輩の秘密を教えて下さい。私、口は堅いです。秘密基地も共有する仲じゃないですか」
言葉を選びながら慎重に訊ねた。
先輩は猫みたいに瞳を三角にし、私を見ていたけれど、ふっと口元に笑いを浮かべた。
唇の間から八重歯が見え隠れする。
「それって、俺が不倫してるっていう噂?」
「知ってるんですか?」
「1回、彼女とデートしてる所を同じゼミの奴に見られてたことがあった。その後、学校に行ったらみんなが俺を白い目で見てて、びっくりしたよ」
そう言って先輩は笑った。
さっき殴られて唇の端が切れていたのか、笑った後、いててと口元を私のハンカチで押えた。
「それで、私の見たさっきの光景は・・・」
「察しの通り、人妻に手を出して、旦那が逆上して、俺を殴った」
やっぱりそうだったんだ・・・私はがっくりと肩を落とす。

