急に横断歩道の手前で車が止まった。
コーヒーショップ側の車線だ。
車の中から、男の人が出て来た。
男の人は、ガードレールと飛び越えて、2人の前に立った。
女の人の表情に恐怖が交じり、男の人が逆上したのか先輩を思い切り殴った。
先輩はコーヒーショップの花壇の上に倒れた。
日曜の午後だし、人通りの多い通りだったので、通行人から小さな悲鳴が上がり、3人を避けるようにその場だけ空間が出来ている。
テラス席に座る人たちも騒ぎが気になるのか視線を送っていた。
男の人は先輩に駆け寄る女の人の腕を掴み、先輩から引き離すと、そのまま強引に女の人を車の助手席に押し込めた。
何事もなかったかのようにひらりとガードレールを飛び越えて運転席に乗り込むと、車を発進させ、消えて行った。
先輩は殴られた口元を手の甲で拭いながら立ち上がった。
周りにいる人たちが先輩を見ている。
先輩はそんな視線を気にせずに、おしりの埃を払うと横断歩道を渡って、こちらに向かって歩いて来た。
下を向きながら、口元に手を当て、痛そうに顔をしかめる先輩の前にハンカチを差し出した。
差し出されたハンカチに気付き、先輩が顔を上げる。
「・・・ちよこ」
先輩が私の名前を呼んだ。

