誰もいないと思っていた屋上の、貯水タンクの影から……


「……蓮?」


帰ったはずの蓮が現れた。


「帰ったんじゃなかったの?」


問いかけると、蓮は小さく笑いながら歩み寄って来る。


「お前が今日、野宮と話す事くらいお見通しだ」


これにはもう、さすがとしか言えなくて、私は苦笑いを浮かべた。

すると、蓮はニッコリと嬉しそうに微笑んで。


「これでやっと、独占できるな」

「独占?」

「ハルのカモフラージュもいらない。野宮から隠れる必要もない」


言いながら、私の左頬に蓮の右手が添えられる。

温かく、くすぐったいその感覚に瞳を細めれば──


「ありがとう、なずな」


蓮の顔に、優しい笑みが浮かんだ。


「野宮を変えてくれたことと……俺への、告白も」

「あ……」

蓮の言葉が示してるのは、さっきの野宮さんへの決意表明。

伝えることに必死だったとはいえ……本人に聞かれてたなんて。

今更だけど恥ずかさがこみ上げてきて、頬が熱を持つ。