「や……多分、バカを背負って生きてきてはないけど」

「いやいや、バカでしょアンタ。だって、くだらない嘘に踊らされて、無駄に助けて怪我までしたんだよ?」

「そ、そうだけど……」

「しかも散々嫌がらせした相手を、何を勢い余って助けちゃってんの?」

「というか、助けられなかったんだけどね」


アハハと笑うと、野宮さんは呆れたかのように大きな溜息を吐いた。


「バカの相手って疲れる。もう戻るから」


言って、野宮さんはキッと音をたてて車椅子を動かし始める。


「あっ、待って!」


まだ話したいこと、伝えたいことがある。

引き止めると、野宮さんは動きを止めてくれた。


「……まだ何かあるの?」


彼女の視線が私を真っ直ぐに捉えている。

私は静かに息を深く吸い込むと、唇を動かした。


「私ね、やっぱり蓮の事が好きなの」


伝えると、野宮さんの表情が不快だとばかりに歪む。


「……知ってるよそんなの。桃原といる時も、アンタは蓮の事を忘れてなかったでしょ」


ドキリとした。

彼女には、バレていたんだ……