彼女の元を訪れ、話がしたいと頼んだのは、蓮が帰ってすぐだった。

夕暮れの屋上は少し肌寒い。

彼女……野宮さんは、足の骨にヒビが入ってしまったらしく、車椅子でここまで移動した。


どう切り出したらいいかわからない。

赤ちゃんの話が嘘だった事、蓮の事。

私の想いと、野宮さんの想い。


ちゃんと話さなければいけないのに……


いざ、彼女とこんな風に時間を過ごすとなると、戸惑ってしまう。


野宮さんは車椅子に座りながら、緑色のフェンスの向こうに広がる街の景色を眺めていた。

その瞳がふと私へと向いて、ドキリとする。


「……話って、なに?」


少し不機嫌な声で問われて、私は唇を引き結んでから……


「まず……赤ちゃんの、ことなんだけど」


なるべく落ち着いた声で言った。

すると、野宮さんは「ああ、アレね」とまたもや面倒そうな声を出して。


「嘘だよ。蓮から聞いてないの?」


開き直ったように話す。