「っ……あたしだって……好きなのに……」


首を振り、涙をにじませながら一歩後退した野宮さん。


その、瞬間──


雨の為に床が濡れていて、キュッと滑るような音が耳に届く。

振り向くと、野宮さんの驚愕した表情。


彼女が、体勢を崩し落ちていく姿が目に飛び込んできて……


「の、みやさんっ」


私は手を伸ばし、彼女の腕を取ろうとした。


「ダメっ、赤ちゃんが──」


このまま落ちたら、赤ちゃんの命が危ない。

思った刹那。


「なずなっ、野宮っ」


蓮の声が遠くに聞こえた気がして。

同時に……


体中に、強い痛みをいくつも感じて。


「なずなっ」


階段を駆け下りてくる蓮の姿に、私は野宮さんを助ける事も出来ず……

一緒に落ちてしまったのだと、体に走るひどい痛みを感じながら、なんとなく理解していた。