「前みたいに、笑っててくれ」


前みたいに……

それは多分、二人がまだ何にも傷つかずに笑っていられた時。

幸せを心と体全部で感じていた頃。


「…………」


肯定も否定も出来なくてただ苦笑いを浮かべると、蓮は困ったように溜め息を吐いた。


「それもこれもお邪魔虫のせいか……」


呟いた蓮にまたも無言でやり過ごそうとしたけれど、彼はそれを許してくれず。


「なずなも学習しないな。こういう場合の無言は肯定してるようなもんだろ」

「あ……」


しまったと思って手で口を覆うと、蓮はクスクスと笑った。


「まぁ、そんな単純なとこも可愛いんだけどな」


言って、彼は立ち上がる。


「あの、蓮」

「ん?」


もうここを出るのだろう。

鍵をポケットから取り出した蓮に、私は問いかけた。