「最近は佐伯って呼ばれてたからな」

「あ……」


無意識だったけど、確かに私は蓮の名前を呼んでしまった。

もう、蓮という名前で呼ぶことに慣れてしまっていた私には佐伯と呼ぶ事が不自然で。

だから油断するとこうなってしまうのを実感。


「アイツの事気にしてわざと呼んでるなら、二人の時くらい──」


蓮は多分名前で呼んでもいいという類の言葉を続ける気だったんだと思う。

けれどそれは「なずなっ」という叫ぶような怒りを含んだハルの声で遮られた。

驚いた私が声の方に視線を動かすと、そこには声色通り、怒った表情で私たちの元に駆け寄ってくるハルの姿が。

ハルは私の手を掴んで自分に引き寄せると蓮を睨んだ。


「佐伯、こいつにあんまちょっかい出すな」

「おーおー、ハル君は嫉妬深いなぁ」


突き刺さるようなハルの敵意を蓮はからうように言ってかわそうとする。


「ちょうどいいな。なずな、彼氏にそれ持ってもらえ」


言って、蓮は背を向けて去っていってしまった。

蓮の姿が見えなくなると同時にハルの低い声が私を責める。