「あ、あのっ、言わないで!」


すがるようにお願いすると、蓮は無言のまま手の力を抜いて離した。

腕にあった蓮の体温が遠ざかると、雨音だけが私に纏わりつく。

地面を弾き濡らす音に混じるように、蓮の声がした。


「口止めさせられてるんだろ? で、この事をハルも知ってる」


図星をさされて、だけどこれ以上隠しておくことは不可能だと思った私はただ黙る事で肯定する。


「これで大分つながった」


そう言って、何故か蓮はニヤリと笑った。

それは怒りを含んだ恐ろしさを感じる笑みで、私は何も言えないまま蓮から視線を外す。

と、聞こえてきたのは予想もしない言葉。


「わざわざ好きでもないアイツにコクって正解だったな」


……好きでもないのに、コクった?


「な、に言って……」

「俺が何も気付かないと思ってたか?」


蓮がゆっくりと立ち上がる。

そうして私を見降ろす瞳は、今の今までとは打って変わった優しい……二人でいた頃の瞳で。


「俺が好きなのは今もなずな……お前だけだ」


雨の中、私は確かにその狂おしい音を聞いたのだった──‥