「次は、区役所前、区役所前」


バス車内に流れるアナウンス。

降車ボタンが押された音がして、私はそれを耳だけで受け取りながら視線は携帯に落としていた。


液晶の中に写しだされているのはハルからのメール本文。

他愛ないいつもの文章のあとにあるその一文は、今からする私の返信内容を悩ませるものだった。


『佐伯に彼女ができたって知ってた?』


……なんて返すのがいいのだろうか。

驚いたようにする?

それとも知ってたよと答える?

正解なんてどう考えてみても出るわけはない。

こんな風に悩んでいる間に、ハルは何か勘繰っているかもしれない。


早く返さないとダメだ。


そんな気がして私は『そうなんだ』とだけ返し、他の話題を振った。

それが正解だったのかはわからない。

だけどハルからのその後のメールには、蓮の事は出てこなかった。


これで、いいよね。

私からは触れない。


そう決めて、私たちは穏やかな日常を送っていたのだった。


──けれど、その日は突然やってきた。