「あり、がとう」 嬉しさに絞り出した声は、聞こえないかもしれないような小さな声だった。 街の喧騒に消されてもおかしくない、そんな声。 だけど…… 「どういたしまして」 淡々とした返事を私に届けた蓮は、笑みを浮かべる事もないまま再び私に背を向けて歩き出した。 いまだどんよりした分厚い雲の下、蓮の後ろ姿を見送る私の手を強く引いた桃原の表情は…… 怒りと悲しみをはらんでいた。