彼に触れたら、私の心はもっと前を向けるんじゃないか。

それに、私を大事にしてくれている彼を、私ももっと大事にしてあげたい。


ちゃんと、恋人らしく。


そんな事をぼんやりと考えていたせいか、周りをちゃんと見ていなかった私は通行人とぶつかってしまった。

ドンッと肩がぶつかって、私は急いで謝罪する。


「ごめんなさいっ」

「いえ、こちらこそすみません」


ぶつかってしまった相手はメガネをかけた大学生くらいの男の人。

人の良さそうな見た目通りの柔らかな雰囲気に違わない口調で、謝り返してくれた。

そして、何事もなかったように去っていく。


「ヘーキか?」

「うん。ちょっとボーッとしてて」

「危なっかしいなー。ほら」


ほら、という言葉と同時に私の手を桃原がとった。

桃原の温もりがダイレクトに私の手に伝わって、体温ごと繋がる。


「うん」


きゅっと握り返してチラリと桃原の横顔を観察すれば、彼の口元が嬉しそうに緩んだのが見えた。