着替えと貴重品だけをスポーツバックに詰め込んで、あっという間に支度は完了した。
ベッドに転がっているスマホに電源を入れて、私は実家に電話をかけた。
プルルルー。
「もしもし」
四コール目でお母さんが電話に出た。
「もしもし、美桜だけど」
「あぁ、美桜!電話なんて珍しいわね、どうしたの?」
「うん。あのさ…ちょっと色々あって、今からそっち帰ってもいい?」
「それは別に構わないけど。色々って、何かあったの?」
「まぁね。色々…」
「そう。美桜が話したくないなら、無理には聞かないけど」
「うん。ありがとう」
お母さんはいつも私の気持ちを優先してくれる。
その優しさに私は何度も救われてきた。
「もう来るの?」
「うん。今出ようと思ってる」
「そう、じゃあ待ってるから。気を付けてね」
「うん、わかった。ありがとう」
電話を切って、私はすぐに玄関に向かった。
気取っていく場所でもないし、歩きやすい靴がいい。
そう思って、下駄箱から履きなれたスニーカーを取り出した。
それに足を通して、スポーツバックを右肩にかけ私は家を出た。
もちろん、スマホはテーブルに置いて。

