あきらめられない夢に

「今日から新しく入った宮沢(みやざわ)くんだ」


相変わらず課長は僕のことを『みやざわ』と呼んでおり、このままだと僕はこの会社では『みやざわ』になってしまう。

そんな危機感を持ちながらも、訂正する機会を失ってばかりだった。


「課長。

履歴書には『みやざわ』じゃなくて、『みやのさわ』になっていますけど」


一番奥のロッカーの前に立っている如何にも頑固おやじという言葉がぴったりと当てはまりそうな男の人が、右手に持っている履歴書を見ながら課長に進言してきた。

自分からは言いにくいもので、そういうことは他人から言ってもらえることが非常に有り難いことだった。


「ああ、そうか、そうか。宮ノ沢くんだった。

宮ノ沢くん、ちなみに彼がここの主任の団一平(だんいっぺい)くんだよ」


課長が豪快に笑うのを横目に、僕は主任にお辞儀をした。

これでようやく僕も『みやざわ』から『みやのさわ』に戻ることができた。



しかし、課長の笑い声がプレハブ小屋に響いているというのに、六人は誰一人笑っておらずに空気が張り詰めていた。